発掘現場

出典: ウィキ

 出雲神社の社の横が発掘調査現場だった。歴史を感じさせる社のすぐ隣に2坪のプレハブ作業棟がある。そこには3人の作業員がいた。学生アルバイトの高橋とベテラン作業員の沼田。そして、現場監督の大木だった。
「この遺跡は呪われてますよ」
 弁当休みに、番茶をすすりながら学生アルバイトの高橋が言った。ジーンズにジャンパー姿。靴はハイカットの運動靴といういでたち。
「霧島病のことなら心配ない。十分に消毒してあるし、ワクチンも打ってるだろ」
 髭を生やしたベテランの沼田が笑う。作業服が実に様になっている。足元は長靴だった。沼田は県内の遺跡から遺跡へ流れ歩いて10年になる。ひとつの遺跡を調査するたびに調査団が結成され、会社員なみの待遇を得る。しかし、それは一時的なものだ。発掘が終れば調査団は解散される。そのいいかげんさを沼田は好いていた。縛られたくないのだ。
「そうじゃないんです。先週みつかった黒い石。あれを開けちゃいけないと思います」
 高橋は真剣に言う。
「高橋君の言うのは、ツタンカーメンの呪いみたいなものか? そんなものあるわけないよ」
沼田はとりあわない。
高橋の言う黒い石とは、石棺の蓋と思われるもののことだった。黒曜石からできており、カッターナイフの刃が入らないほど、ぴったりと閉じられている。
「今まで出た遺物とはぜんぜん違うでしょう。別の文化だ。あの石の中身に触れないように、霧島病ウィルスを仕掛けてたような気がする」
小太りの大木が男性週刊誌から顔をあげた。
「高橋ちゃん、現場担当者が想像でものを言っちゃダメでしょ。判断は研究者がする。僕たちの仕事はきちんと掘って、掘った場所を記録すること。呪われてるにしてもね、開けるのは俺たちじゃなくて、研究者さんたちだよ。心配いらない」
 大木は発掘を委託されている建設会社の社員だ。高橋と沼田が余計なことをしないように言われている。ここ島根県で、東北であった歴史改竄のようなことがあっては困るのだ。
「そろそろ1時か。午前中に養生した石棺、午後2時に来るクレーンで釣って、トラックで運ばせるから。吊り下げと運搬にはうちの若手を3人手配してる。沼さん、段取りよろしく。石棺搬出後は、石棺下の調査。午後もがんばりましょう」

 石棺は予定通り運び出された。しかし、研究室には届けられなかった。