眼帯を外す夜

出典: ウィキ

眼帯を外す夜(2003/09/03)
 戒厳令下の夜。明かりを消した日御碕灯台に昇る。
「“眼”、見てちょうだい」
 優子様は命じられる。
 右目だけで見ると月明かりを反射する海が見えるばかり。
 しかし、眼帯を外すと世界は一変した。
 海のなかに赤く光る物体が沈んでいる。僅かに白味を帯びているのは、放射線の色だ。
 この光り方には見覚えがある。私は一度見たものは忘れない。
「何が見える?」
 優子様がお尋ねになる。
「昨年、来航したのと同じロシア製原子力潜水艦でございます」
と私は答える。
「キャビテーションノイズが変わっていると“福耳”は言っているけど、改良してるのかな」
「さあ、そこまでは見えません」
 セーラー服姿の優子様の身体はピンクの輝きに包まれている。今日の体温はいつもよりお高いようだ。下腹部が特に熱を持っている。
「見えるでしょ。初日なんだ」
 と優子様。
「鎮痛剤がクルマにございますが」
「いいわ。最近、効かないから」
 巫女は皆、能力と引き換えに何かを失っている。私が失ったのは可視光線を視るための左目。
 優子様はもっと多くのものを失っておられるし、失い続けておられる。